celestial
あぁあ、最悪だ。細かい失敗は数え切れないほどあって、その度にその場は笑って誤魔化して乗り切った。いや、そもそも本当に誤魔化せているのか、乗り切れているのか、そこは大いに疑問の残る部分ではあるのだが。
生田はその日の夜もベッドの中で、切なげに寝返りを打った。
とにかく、こんなにもうわのそらで、最近は振り移し中にも怒られる事がしょっちゅう。台本もなかなか頭に入らない。障害物が何もない場所を歩いていても何故か躓く。…クビになったら、困る!
風間の傍にいられなくなる。それだけは、絶対に、駄目だ!
じゃあ、どうする? どうすればいい? 生田は頭を抱えたけれど、それは一瞬の事だった。
答は簡単なのだ。考えてみるまでもなく、道筋はひとつしかないのだから。逃げ続けていた事に向き合って、離れずにいられるのかどうか、本人に尋ねてみるしか、ない。
「風間、お願い!」
「なぁに、つまんない話なら聞かないから。別の相手、探せよ。」
「大事な話! 凄く! 風間じゃないと駄目な話!」
衛星放送のテレビ番組のリハーサル、今は休憩中。傍にぺったりとくっついて力説すると、水分補給に余念のなかった風間は、漸く生田の方に向き直ってくれた。
それだけで嬉しくて、更に言うなら風間の顔の向こうには今日も綺麗な翼が見えていて、顔が緩んできそうになるけれど、いやいや肝心なのはここからだ。
「だから、今晩、あけて?」
「……………え。今じゃ駄目なのか。」
「駄目なの。大事な話だから、ちゃんとしたいの。」
風間は、珍しくあからさまに当惑した顔をして、生田を見上げた。
それというのも、今夜は山下と約束があるからだ。それを生田は知っていて、あえて食い下がっている。断られる事を見越した自虐的行為なのか、それとも一か八かの賭けなのか、自分でも分からないままに。
それにしても、普段の生田を知っていればこそ、断られて当然の状況だ。単なる気紛れ、子供の我侭。
なのに、風間は即答を避けて、生田の顔をじっと見つめた。
「………大事な話だから、今ココじゃ駄目、なんだ?」
風間の、注意深く言葉を選んだ口調に、生田は真剣な表情でこくこくと頷いた。気付くと何時の間にか、傍に山下がいる。いつもと同じ、機嫌がいいのか悪いのか判断し辛い、ともすれば冷たく見え過ぎてしまうような、平静さを保った顔。けれど、その口から出た言葉は明らかに、不機嫌と不満の色。
「風間くん、俺との約束はー?」
「……んー…………、」
応えにならない声を洩らして、考えに入ってしまった風間。考える余地があるのか、それとも断る言葉を探しているだけなのか、一刀両断で切り捨てられるとばかり思って覚悟を決めていた生田は、固唾を飲んで見守った。
しかし無情にも、そこにリハ再開の声が飛んだ。おかげで、風間の答を気にしたままの生田はまたもやうわのそらで、散々罵声を浴びせられる羽目になったのだった。
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