はくじつ【白日】曇りなく輝く太陽。白昼。身が潔白になる事。
白日・序章
これって、悪い事?俺はただ、好きなものを好きなだけ。
「我慢すんな、カメ…」
「や、仁…あ、んぁ、キモチ、イ…っあ、ソコ、や……ぁ」
緩く下ろした瞼の裏っ側が、火花散らすみたくチカチカしてる。
壊れちゃうかと思う位に激しい突き上げ。
自分のものじゃないみたいな甘い声を上げて、何度もカラダを強張らせる俺を、仁は優しく抱き締めてくれる。
いっつもそう。仁は、セックスの時が一番優しい。
だからつい、愛されてるのかなーなんて、オメデタイ勘違いもしちゃいそうになる。
俺、基本的にアタマ使って考えんの苦手。だから、言われる事される事、あっさり額面通りに受け取っちゃう。
良くも悪くも、馬鹿みたい?別にいーじゃん。だって俺、馬鹿だもん。
馬鹿にもなるよ?だって、仁のセックスって超キモチイイんだもん。
キスも、カラダ触られんのも、中に入れられんのも。イタイけど、全部キモチイイ。アタマん中、からっぽになっちゃう。
こんなにキモチイイ思いすんの、俺、生まれて初めてなんだよね。
最初はかなり痛かったりしたけど、どっちかってゆうとそん時からキモチイイの方が勝ってたし、すぐに馴れちゃった。
仁って凄いよね、伊達に遊んでないっつー感じ?
オトコの経験までは知んねーけど、やっぱウマイよ。
俺はもちろん、オトコに抱かれたのなんてハジメテ。つまりは、処女捧げたっつー事になんの?
てゆうか俺、この世界入るまでは野球一筋、健全スポーツ少年だったからさぁ、
自分で言うのもなんだけど、正直なとこ、オンナにもそんなに闇雲には興味なかったんだよねー。
人並みっつーの?カワイイもんよ。
だから、仁の部屋で初めてベッドに押し倒された時なんて、びっくりし過ぎて口から心臓飛び出るかと思った。
最初、冗談だと思ったんだよね。てゆうか、普通そうでしょ。親友とか相方とか思ってた奴が、いきなし俺の上に乗っかってんだもん。
でも、「何してんだよ」って笑った瞬間、仁の顔がふっと大きくなって、俺の唇に柔らかいのが軽く触れた。キス、されたんだ。
一瞬、アタマん中は真っ白。自分の身に起こった事が、理解できなかったんだよな。
さっきも言ったけど俺、頭よくないからさぁ。意味、分かんなかったんだよ。
でも、された事がされた事だっただけに、意味は分かんないながらもわりとすぐに、どうゆう事態なのかってのは頭にスパンときて。
普通は、ひくか笑って誤魔化すか、ふざけんなってぶん殴るか、とにかく何か拒否行動起こすよな。
俺、ちゃんとオトコだし。仁も勿論、オトコだし。
でも、なんか言わなきゃと思って見上げた仁の顔がすげー真剣で、カッコ良かったんだよ。超至近距離、なんか、マジで見蕩れちゃう感じで。
んで、抵抗すんのも忘れてぼーっと見蕩れてたら、今度はちょっとゆーっくり、首とか触られながら、やらしげなキスされちゃって。
「カメ、俺のもんになんない?」
って。どうよ、この科白!ここで頷かない奴はどうかしてるね。
だって、仁のあの綺麗に整った顔が俺の目の前にあって、つやっつやの唇がさぁ、
俺にキスした上、「俺のもんになんない?」なんて言っちゃってるんだから!
うっわ、今軽く思い出しただけで、どうにかなっちゃいそう。
好きとかそうゆうのはよく分かんないけど、なんか、そう言われて超嬉しかったんだよねー。
俺は何も考えずに、「うん」って言った。そしたら仁、「マジで?」ってすっげー嬉しそうな顔で笑ってくれて、すっげーいっぱいキスしてくれた。
んで、首触ってた手がゆっくりと動いて、他の所もいっぱい触ってくれて。そのまま仁に抱かれて、会う度毎に抱かれて。
「あ、あぁあ、やぁ、も………」
仁に掴まってる指先も、カラダ全部も痙攣して、痺れてくる。
瞼の裏じゃもう、白の中で白がスパークしてる。全部、真っ白になっちゃう瞬間が、もう、目の前。
「……やらしー顔」
前髪掻き上げられながら、意地悪く言われても、駄目。もう、意識、飛んじゃう。
「仁、じ…ん、あ、あぁっっ!!、 っ!!!!!」
イタイ。
「好き」とか「愛してる」とか、言われた事ない。
でも平気。んなのより、カラダ繋げてる方が、全然安心できる。
言葉貰ったって、不安になるだけじゃん?分かんねーもん、「愛」なんて。
カチリ。ジジ、て特徴ある音に目開けると、微かな紫煙が漂ってきた。
「………じーん」
「お前、貰い煙草多過ぎ」
「いーじゃん、切らしてんだよ。1本だけ。おーねーがーいー」
甘えて仁の胸の上で手ぇパタパタさせると。一口吸ったそれを口に銜えさせてくれる。
笑って軽く吸い込んで、目、閉じた。この時間、なんか好き。
さっきまでの熱い空気とか息遣いとか、嘘みてーな感じ。全部が少し遠くて、どっかよそよそしくて、でもちょっと甘いの。
マルボロ・メンソール。
なかなか馴れなかったこの味も、いつの間にか好きになってる。仁と付き合うようになって、俺もおんなしの吸い始めたんだ。
たまにしか吸わないけど、もう手放せない味。
目閉じたままで味わってると、
「う、わ。何、どーしたんだよ」
いきなり煙草取り上げられて、抱き寄せられた。珍しー。
やり終わった後は、あんまりベタベタしないのが仁の流儀らしいのに。俺の疑問に答えずに、仁は俺の湿ったままの体を、ぎゅうって抱き締めた。
きもちいー…汗が冷え始めてちょっと寒くなってた肌に、仁の体温が染みてきて、すっげーきもちいい。
甘やかされるのもあったかいのも好きだから、大人しくくっついてみる。
あー、ひょっとしてもう一回すんのかな。
舞台ある間はそっちに集中する為にも、やめておこうなって言って、してなかったんだよね。
珍しく、お互いにちゃんと約束守ってさ。自分で抜くのは別にしても、他でやってないんなら、たまってるだろーし。
んで、コンリハとか始まったら、また間あくだろーし。今のうちにいっぱいすんのかな。
俺?俺は今んとこ、仁だけ。
別に、他とやってもあんま文句言われなさそーとか思うんだけど、それ考えなくてイイくらいのペースで仁とヤってるから。
性欲処理でアタマ悩ます必要がナイってのは、何もしなくてもたまってく健全な青少年としちゃ、ホント有り難い話。
皆、どう処理してんだろ。うちのグループに限って言えば、中丸と上田は付き合ってるんだっけ?
聖はー、性欲よりもむしろ筋トレ命って感じか。
この中じゃ田口が一番、そーゆーのに縁なさげな顔してるよなー。生活観を匂わせないってゆうの?
つーか、あいつがセックスしてんのなんて想像できない。モテそうには見えるけど、人畜無害、爽やか好青年ぽくてさ。
でもそうゆう奴に限って案外、裏では色々とやってんのかもね。田口、二重人格だしさ。たまにコワイもん、目とか。
………どしたんだろ、仁。俺の事抱いて、黙ったままで動かない。もう1回すんのかと思ったのに。
それとも俺、何か仁が気に入らないような事、黙っちゃうような事、したのかな。
イタイ。
「仁?」
「何」
「どしたの。俺、なんかした?」
「なんかって、何」
「分かんないけど」
「なんだソレ。訳分かんねーし」
うわ、頭悪い会話。俺っていっつもこうなんだよなー。
思った事、自分でも整理できないままで口に出しちゃう。
よく言われるんだよ、「訳分かんない」って。仁だけじゃなく、誰にでも。
俺おっかけてる女の子達は、ソコが可愛くて好きーとか言ってくれちゃうから、直すのもなんだなーって、困りもんなんだけどさ。
「てゆうかお前、また痩せてね?ちゃんと食えって言ってんじゃん、俺」
「何ゆってんの。俺がすげー頑張って食ってんの、仁が一番知ってんだろ。それに舞台やってる間は、食っても食ってもつかなかったんだよ」
「んな事は分かってるっつの」
俺、食が細いから体につかない。体質?わかんないけど、昔からそう。
俺の貧相な体に比べたら、仁は無駄な肉がついてないってだけで、ちょうどよく筋肉があって締まってて、ちゃんと男の体してる。
それに引き換え俺はー…、情けないけど、カリカリ。体重、50sに乗った事、まずないもん。
舞台やってる時は、マジ食えなくて、43まで落ちた。これホント。やばいよねー。
腰回りなんて、そこらの女の子よりも細いと思うよ、多分。自慢にもなんねーっつーの。って、あれ?
「仁、心配してくれてんの?」
「そーだよ。あんま痩せ過ぎてっと、骨当たって抱き心地悪くなるじゃん」
「あ、そか。ゴメンゴメン」
それは、凄ーく申し訳ない気持ちになっちゃう。
オンナノコだったら、ダイエットの悩みはすっげーおっきいんだろうけど、俺の場合は逆。なんとかしないとなー。
って、納得してると、俺の腰骨の辺りコリコリしてた手で、ぺちって頭はたかれた。
「本気にしてんなよ。馬鹿」
「仁に馬鹿とか言われたくないー」
「うっせ。じゃなくて、肉つけないとまた倒れたりすんだろ?」
「あ、そっか」
「……ホント、お前って馬鹿な」
普段、周りに馬鹿とかヘタレとか頼りないとか言われて、当たり前にそれに甘えてる仁も、
俺には保護欲みたいなのそそられるらしくて、いっつも馬鹿馬鹿言う。
しょうがないなって顔で笑ったり。
なんかそれって、特別だよな。仁が甘やかすのは世界中で俺だけかもーとか思うと。
女にも甘えてくタイプらしーし。へへ、なんか気分良くなってきた。
「何ヘラヘラしてんだよ」
あ、顔に出ちった。
「べっつに。さっきの仁、超気持ち良かったなーとか思って」
「………カメ、えっち」
「えっちだよ。だって、仁が全部教えてくれたんじゃん」
笑ってる仁にきゅうっと抱きついて、綺麗な形の唇を舐める。言葉やキスで俺をいっぱい気持ち良くしてくれる、最高の唇。
朝、嫌い。つーか、今日はもう昼だけど。
だって、ベッドから出なくちゃなんないし。裸で仁とずうっとくっついてたいのに、叶わなくなる時間だから。大っ嫌い。
俺か仁がオンナだったら、こんな事で悩まなくて済むのかな。
ベッドから出たって、手繋いだり腰抱いたりキスしたり、見てる方がむかつく位にいちゃいちゃしながら、街の中二人で歩いたり出来んじゃん?
俺と仁には叶わない夢。人目もあるしさ。一応、俺らアイドル様だし。切ないねー。
外に出ると、曇りなく白い光が目を刺した。
イタイ。
「……どした?」
思わず立ち竦んで目を擦ってる俺に、仁が足を止めて首を傾げる。向けられた顔が、眩しい。
「目…超いてー……」
イタイよ、仁。
「あー、寝不足だからなー」
ニヤリ。一瞬、すっげエロい顔で俺を見る、目。見つめられるだけで、マジでゾクゾクする。
体の芯がじわーって温くなって、くすぶってくる。俺、いつからこんなにやらしくなったんだろ。
「我慢できなくなったら言えよな。ラブホでもなんでも連れてってやるし」
「マジ?買い物終わったら行こっか」
「……元気だな、お前」
超喜んで答えた俺見て、呆れたみたいに仁が笑う。好きだな、仁の笑顔。なんも考えてなくて。
なんも考えられなくなる感じが、夏の太陽に似てる。痛く刺さる感じが、似てる。
好きなのに、なんでこんなに辛いんだろう。目がチリチリする。真夏の太陽にじりじり焼かれてるみたいに。焦がされてる。痛くて、イタイ。
ねぇ、これって悪い事なのかな。だから、どっかがこんなにイタイのかな。