なかよし
湯気の立つ、熱々のラーメンをすすりながら、他愛ない話で盛り上がって、笑い合った。ダンスの事や歌の事、次に入っているロケの事やコンサートの事なんかの、真面目な話も真剣にして。
そうすると、後は、帰るだけ。
お勘定を済ませる。今日は、中丸が奢る番。昨日のマックは上田が奢ったから。順番にお金を出し合うのも、いつの間にか習慣になっていた、仲良しのルール。
駅までの道を、肩を並べててくてくと歩く。
「寒いー!」
手袋をしていない手を擦り合わせて、かじかんだ指先を少しでも暖めようと息を吐きかける。ほんの一瞬、空気がぼんやりと白く滲んで、溶けた。
「せっかく、ラーメンどんぶりであったまってたのに」
「もう冬だし。冷える時はあっちゅう間だって」
「ホント……………」
言葉が、続かなかった。
上田は、心臓が止まるような錯覚に陥った。中丸が、自分の手を握ったからだ。なんの前触れもなく。
「うっわ、上田の手マジで冷た過ぎ」
冷え性なんじゃねーの?なんて言いながら、指が絡まった。
あの、すんなりと細く見えて、実はしっかりとした骨を持った中丸の指が。そう考えただけで、止まったかに思えた上田の心臓は、にわかに鼓動を早める。
どうしよう。
振り離す事もできないまま、上田は考えた。どうしよう。握られた手が、どんどん熱を帯びていくのが分かる。当たり前だよな、と思った。だって、手だけじゃない。自分の体温自体、上がってきているんだから。
こんなに寒いのに。さっきまであんなに冷えていた手が、急に汗ばんでくるなんて、変に思われる。へんに、おもわれる。
なのに、振り離せない。離せる訳がない。
今や、上田の心臓は、早鐘のように鳴っている。
急に熱と湿り気を帯びた上田の手を、中丸は気にする風もなく、しっかりと握り直した。
つないだ手について触れる事もなく、寒かったーと言いながら駅の中に入る。途端、上田の手に絡み付いていた中丸の指が、するりと解かれた。
あぁ、そうか。暗い夜道と違って、ここには少なくない人目があるんだ。上田は冷静に納得した。全体的な思考は熱に浮かされたようにぼんやりとしていたが、ほんの少しのどこかが、冷気に醒めているような、不思議な感覚だ。
夢でも錯覚でも、勘違いでもなかった。繋いだ指。
「じゃあ、また明日な」
「うん、明日」
逆方向に帰る二人は、改札を通った階段の前で別れる。ホームに上がると、線路2本をはさんだ向こう側に、中丸はいた。
さっきまではあんなに近かったのに、もう、遠い。
そんなセンチメンタルな思考に、上田は重症だなと溜息を吐いて俯くと、繋いでいた手をもう片方の手で、ぎゅうっと握ってみた。と、
「上田!」
呼ばれて、思わず顔を上げる。
中丸が、手を振っていた。なんだか意味ありげな、イケてない笑み。そして、ついさっきまで繋いでいた方の、手。
ひらひらと動く指を見て、なんだか小さな花が咲いているみたいだなと思った上田は、笑った。笑って、中丸に繋がれていた方の手を、振り返した。
今日起こった事が、中丸の悪ふざけでないのなら。そして、いつまでたっても色褪せないこの気持ち。もしかしたらもう、お互いに、広がってしまっているのかもしれない。
明日になったら、中丸に訊いてみよう。
「俺の事、好き?それは、どんな風に好き?」
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