words of love





words of love

 


気持ちは焦るよね、実際。
まさか、膝にメス入れる事になるなんて。勿論、前向きな気持ちで決断した事なんだけどさ。これからもずっと、この大好きな仕事を続けていく為に。
けど、野球選手が肘を手術したりすると、リハビリも含めて再起に相当な時間がかかるじゃない? で、必ずしも復活できるとは限らない…いや、若さ故の回復力にはちょっと、かなり、自信はあるけど。でも。
なんていうか、重い。ズシンとくる。
リハビリ中も、この先、大丈夫かな。前と同じように…ううん、それ以上に、ちゃんとやっていけるのかな、俺…なんて、真剣に考えたりもする。真剣に考え過ぎて、頭痛くなったり暗くなったりもする。
けどね。待ってるって。そう言うんだ。俺よりもずっと、真剣な顔して。だから、俺はへこたれる訳にはいかない。やめる訳にはいかない。自分の為にも、彼の為にも。
そっと、膝を撫でてみた。彼が眠りにおちる前にしてくれた、柔らかく優しい手の動きを真似て。その感触にはとても、程遠かったけど。
なんだか分からないけど、少し涙が出た。早く、戻りたい。戻る。戻るから。


 


手術・退院の後、順番として最後にお見舞いに来てくれたのは、やっぱりというか当然というか、亀梨だった。
なんで最後が当然、普通は最初じゃないのかって? それはね、他のメンバーとはちあわせるのが嫌だから。自分がいるところに誰かに来られて、ふたりきりじゃなくなるのは絶対に嫌だ! なんて言うの。かわいいよねー。
大体、みんな俺達の事、知ってるんだから、邪魔なんて……されるか。されるな、うん。
「なんだ、元気そうじゃん。皆も言ってたけどさ。」
「うーん、まーまー元気」
「えー…なんかもっとこうさぁ、パジャマ着てベッドでぐったり寝てるとか、陰のある感じに大人しく弱々しくなってるとか、ねーのかよ。つまんない。」
「ある訳ないでしょー。だって病気じゃないもん、怪我だもん。食欲も旺盛だし、もう風呂も入れるし、歩くのもちょっとずつはじめてるし。」
普段通りの部屋着、Tシャツにスウェットのハーフパンツ姿で寛ぐ俺を見た亀梨は、それもそっか、なんて言って笑いながら、小さな花束と、お菓子や果物や雑誌が詰まった袋を俺に手渡した。
「あー、嬉しい。なんか、すっごくお見舞いされてるっぽい。」
「だろ?あえてベタな感じを狙ってみたんだけど。あ、でもお菓子やばかったかなー、動かない時ってすぐ体重にのっちゃうからさ。今なんて、全然体動かしてないんだもんなー、俺が食べちゃおっかなー。」
「うわ、酷い! 絶対食い尽くしてやるぜ! って、大体亀梨ってそんなに食えないじゃん。」
「うっせ。田口がいっつも食い過ぎなんだっつーの。」
つまんない、他愛ない言葉を投げ合って、笑って、じゃれて。
こういう会話が、今は何よりも気持ちが紛れる。ひとりでいると、どうしようもない事も考えちゃうし。考えはじめたら、ぐるぐるしちゃうし。
それでも、亀梨君ほどじゃないけどね、多分。彼は、深みに嵌るとひとりじゃ抜け出せないくらいに、どっぷりと沈んでいくタイプ。本人は、昔に比べれば随分マシになった、なんて言うんだけどね。
そう言えば、去年の夏は逆だったな。ステージから落ちて、怪我した亀梨。体もそうだけど、気持ちも凄くへこんだ亀梨に俺が付き添って、励まして、いっぱい甘やかしてあげたっけ。あ、勿論、普段から甘やかしまくってるけどねー。
あの時は亀梨の事、目一杯まで無理して、力加減の仕方も何も知らないんだから…なんて思ってたけど、人の事は言えないよね。俺も痛いの分かってて、こうなっちゃう事はなんとなく分かってて、ギリギリまで頑張っちゃったんだもん。
ああ、大人げないっていうか、限度分かってないっていうか、負けず嫌いっていうか。そういうところ、お互いに似てるのかも。
そんな亀梨君、今はと言えば、持ってきてくれたイチゴのヘタを取っては、俺の口にせっせと入れてくれてるんだけど。ご丁寧に、コンデンスミルクつき。そりゃもう一生懸命。一生懸命過ぎて、加減も限度も分かってないな、これ。
甘酸っぱくってちょうどいい熟し加減は、イチゴ大好きな亀梨が選んだだけあって、凄く美味しい。でも、亀梨もちょこちょこと食べてるとは言え、もう2パックめが終わっちゃうよ? そろそろ、別のものも食べさせて欲しいなぁ。
たとえばそうだな、亀梨の唇とか。イチゴもとっても美味しいけど、亀梨の唇はもっと甘くて、柔らかくて美味しいの、俺は知ってるもんね。
なんて思ってくすりと笑うと、きょとんと首を傾げられた。
「なに笑ってんだよ、エロ田口。」
「別にー?」
傾げた首の可愛らしさにつられるように顔を寄せて、キス。亀梨はちょっとだけ顔を赤くして、だけど、すげーイチゴ味だなんて言って、笑った。





一緒に夕ご飯食べて、ゲームして、俺が勝って。喋って、仕事の話も少しだけ、して。考え過ぎるのはよくないけど、やっぱり気になるしさ。そういうとこ亀梨は、ちゃんと話してくれる。多分、取り残されたくないって思ってるの、察してくれてるんだろうな。
気付いたら、すっかり遅い時間。
「えっと……どうする?」
「何が?」
「時間、遅くなっちゃったからさ、その、電車、カメんちまでって、」
「泊まっちゃダメなのかよ。田口くん冷たいんですけどー。」
あっさり笑い飛ばされた。だって亀梨、自分の部屋が一番好きじゃん。遅くなっても、なるだけ帰るタイプでしょ? 普段なら、泊まればいいのにって言っても、じゃあお前がうちに来い、って言う人だから。
「たまにはいーだろ、泊めてくれてもさー。」
俺の言いたい事が分かったのか、普段の口調に隠した亀梨の優しさ。…やばい、優しくされると涙、出そうになる。やっぱり、気持ち弱っちゃってるのかな。
そんな俺に気付かないのか、気付かない振りをしてくれてるのか、亀梨は、風呂と着替え借りていい? って、普段の声で俺に聞いた。本気半分冗談半分、一緒に入る? なんて返すと、呆れた顔で頭を軽くはたかれた。





「つーかさー……、頑張れ、なんて言わないから。」
「え?」
もう、ふたりしてベッドの中。散々喋って遊んでじゃれて、さっきおやすみって言ったのに。枕を並べた隣から聞こえた唐突な言葉に首を傾げると、亀梨は少し体を起こして俺を見つめた。
「こんな事、もう言わないからな。いっかいだけ。ちゃんと聞けよな。」
「……………」
俺は神妙に頷いて、亀梨の言葉を待つ。これだけ近いと、明かりを落とした部屋でも亀梨の表情までちゃんと見える。口調に違わず、真剣な顔。
「俺、田口が頑張ってんの、知ってるし。わざわざ人に言われなくても、頑張ってんじゃん? つーかむしろ、あんま頑張り過ぎんなよって言いたいくらいだし! 俺、頑張るって言葉は好きだけど、頑張れって嫌い。なんか適当に投げてるっぽいし、無責任だし。」
「……………」
「それよりさ、なんていうかー……、」
「……なに?」
少し切られた言葉に水を向けるように声を返すと、亀梨は、布団の中で手探りして、俺の痛めてる方の膝に触った。反射的に膝が強張って、体が竦む。すると膝に置かれた手は、今までに感じた事のないくらいに優しく動いて、俺の緊張はふんわりと溶けた。
アイスクリームを溶かすように、その手はするすると俺を癒して、撫でた。不思議な感覚。亀梨の手って、こんなに優しいんだ?
暫く黙ったままで、手をゆっくりと動かしていたかと思うと、
「………だから俺、お前の事、待ってるから。ちゃんと待ってるから! それ、言いたかっただけ。んじゃ、今度はマジでおやすみ!」
亀梨は一方的に話を終えると、膝から手を離して俺に背中を向けて、布団の中に潜り込んじゃった。
………なんていうか。びっくりした。そんな風に考えてくれてたなんて。優しくて嬉しくて、ちょっぴり重い、亀梨の言葉。その心地良い重みが、こころの中の不安がってた場所に、じんわりと落ちて沁み込んでくるみたい。何よりのお見舞い、なによりの贈り物は、君の言葉と君の存在。
照れた背中を、そっと抱き締める。微かに身動ぎした亀梨。俺はそれ以上動かずに、小さく小さく囁いた。他の誰にも聞こえないように、大事な大事な、あいのことば。





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