words of love
最近すっかり、みんながひとり足りない事に馴れてきてるみたく見える。俺の目にそう見えるだけで、本当はそうじゃないかもしれないけど。あいつの事を、あんまり口にもしなくなって、それは気にしてないって訳じゃなくて、わざわざ言わないだけだろうっていうのも分かってる。
けど、頭で理解できてるってのと感情とは別物で、俺は気に食わない。気に食わなかったから。
「どうしたの、亀梨?」
俺の声を聞くなり田口は、優しい声でそっと尋ねてくれた。少し高めに通る声。普段から穏やかな話し方をする奴だけど、電話だと情報が声だけだから、それが一層際立つ気がする。それとも、今、俺がへこんでるから、都合よくそう聞こえるだけなのか?
「なんでもねーし。調子、どうなんだよ。」
「んー、まあまあ、かな?」
いっつもそう。心配かけたくないから、俺が具合を聞くと田口は必ずそう答える。四六時中まあまあなんて、絶対嘘に決まってんじゃん。簡単には会えない今だからこそ、そう言ってくれてるんだよな。
それは、きっと田口の優しさ。分かる。分かってるけど、辛い時くらいは大人ぶってないで、ちょっとは甘えて欲しいじゃん? って、へこみ真っ最中の俺にそんなの、言える訳ないか。ないな。
「亀梨こそ、調子は? 喧嘩した?」
ほら、しっかりバレてるし。簡単にバレちゃってるし。
「なんでだよ、」
「だって声、めちゃくちゃとんがってるんだもん。耳がちくちくするよー。誰かと喧嘩した後って、いっつもそうでしょ。誰? 赤西君?」
「……………うっせーし……」
「いいから、話して。なんでも聞くから、ね?」
じんわりと耳に染み込む、柔らかな口調。俺は目を閉じて、ベッドに転がった。
くっそ、悔しい…全部お見通しみたいな言い方、すんなっての。でも…だって。だってさ。
きっかけなんて、別になくて。しいて言うなら俺がきっかけ。だから、謝らなくちゃなんないのは、俺。分かってる。
疲れてたんだ。言い訳になるけど。
なんでこんなに疲れてるんだろうと不思議に思うくらい、からだよりもこころがくたくた。去年なんてもっと忙しい時期もあったし、怪我しても元気だったのに。なんか、とにかく苛々してて。
仁が楽しそうに上田とじゃれてて、聖と中丸もプロレスの真似みたいな事してじゃれてて、だからって別に俺だけがハブられてるって訳じゃないし。
俺は疲れてたから、さっさと体力回復したくて、今日は早めに寝ようと思って。ホテルに帰る仕度、してた。そしたらそこに仁が、ちょっかい出してきたんだ。これは俺の勝手な思い込みなんだけど、上田とじゃれる片手間みたいに感じたの。で、カチンんときて、むかついて。
喧嘩になっちゃってた。仁と掴み合い。聖が間に入ろうとして喚いてて、俺を中丸が、仁を上田が後ろから羽交い締めにして止めようとしてて。
気がついたら、口から出てた。俺の気持ちなんて、誰にも分かんない。大事な人と一緒にいられない気持ちなんて、分かんない。って。
それ聞いたみんなが一瞬固まって。ばつ悪そうにしてるみんなの顔見てたら、なんか涙出てきそうになって。仁が何か言おうと口開きかけたのが目に入って、もし、そんな事絶対に有得ないんだけど、万が一、謝られたりなんかしたら、きっと俺、本当に泣いちゃうかもしれない!
だから後ろも見ずに、慌ててその場を飛び出してきたんだ。
………誰かが誰かと一緒にいるのに、俺と田口が一緒にいないのが、凄く、凄く嫌だった。ひとりぼっちだ、って。本当に、そう感じて。
俺って、こんなに弱かったっけ? きっと、田口のせいだ。田口が俺を、いっぱい甘やかしたから。いつも傍にいてくれたから。だから、田口がいないとこんなに寂しくて、仕方ないんだ。
「ありがとう。」
俺の一方的な話を聞き終わって、田口はそっと言った。
「は? なんでありがとーなんだよ。訳わかんないし。」
「だって、俺のせいなんでしょ? 亀梨が寂しくて苛々しちゃったのって。だから、ありがとう。」
「……………」
「それから、ごめんね? 傍に、いなくって。」
田口はずるい。ずるくて、優しい。そんな風に言われたら、俺が何も言えなくなっちゃうって、分かってて。
「田口の馬鹿。」
「うん、ごめんね?」
「なんで謝るんだよ。お前、なんにも悪くないじゃん。」
「んー………。」
「もう大丈夫だし。……明日、ちゃんと。仁に謝るから。」
「うん、そうだね。」
田口がいるのといないのとじゃ、空気が全然違う。離れてしまって初めて分かる。きっと、こいつは俺の…ううん、俺だけじゃない。みんなの精神安定剤。本人は分かってないかもしんないけど、田口が笑顔でそこにいてくれるだけで、その場の雰囲気はするするとほどけて、和む。
多分、みんなも分かってる筈。分かってて、言わないだけ。そんな中でも俺ひとりだけ、飛び抜けてこんなに苛々すんのは、俺が誰よりもいっぱい、田口の事を好きだからだ。
「待たせちゃって、ごめんね? もうすぐだから。」
「だから謝んなっつーの。喧嘩しながら、のんびり待ってる。お前のつまんない駄洒落、早く聞かせろよな。足蹴にしてやるから。」
「うん。分かってます。」
新作、いっぱいたまってるから。なんて田口が笑ったから、いらねーって叫んで笑い返してやった。叫んで喚いて笑ってそれから、小さく囁いた。ありふれてるけど大切な、お前にしか言わない、あいのことば。
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時系列の関係で、一応解説を。
これは2004年前半のお話です。田口さんがSHOCK中に膝を痛めて、その後のDREAM BOYに参加できなかった、あれです。
更に、物語中に登場した「去年の夏、亀梨がステージから落ちて」というお話も、別に存在します。
近日中に、お目にかけられたら嬉しいですね。
しかしなかよしくらぶ、ラブラブだなぁ。うん。そんな淳亀もあんな淳亀も大好きです。
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