cheeky
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さすがに、心当たりがあった。なんにって、亀梨の機嫌の悪さ。その原因について、だ。それは、とっても単純な話。今日の一回目の舞台が、あんまりうまくいかなかったから。
当然、反省会はちょっと荒れた。会なんて言っても最終的には、明日からは失敗がないように頑張ります!なんていう、お決まりの結論しか出ない。むしろそれ以外に何を言えって話だ。言っても、細かい失敗なんて毎日、数え切れないくらいにある訳だし。
失敗しないようにどれだけのリハーサルを重ねても、うまくいかない日は必ずある。呼吸が噛み合わない日、疲労がたまった日。毎日が全く同じように、うまくいくなんて事は、有得ない。
つーか。人の機嫌なんてあんま興味ないんだけど正直言って。赤西は、心の中でこっそり呟く。口に出さないのは、機嫌の悪さの矛先が自分に向けられるのを避けるため。アホだバカだと言われていても、処世術、無意識の世渡りと自己を防衛する本能には優れている、と評価されるのはこの辺り。
けれど、今日は赤西にとっても良くない日、だったらしく。大人しくしている事が仇になった。
夏。まだ明るい時間。二人並んでの帰り道。くったりと肩を落として黙りこくったまま歩いている亀梨に付き合って、ひとりで喋るのもばかみたいだし、と自分も黙っていたら、いきなり全開で噛み付かれた。
「仁、今なんか言ったら八つ当たられるとか思ってんだろ。だったら別に、一緒に帰んなくてよくね?機嫌悪い俺の相手すんのなんてマジ勘弁とか思ってんの見え見えだしさ!」
「は?思ってないし!」
「あっそ」
全く本気にしていない亀梨の返しに、さすがにカチンとくる。世渡り上手とは言え、気は長くない。
「つーかさ、終わった事は仕方ないじゃん。いつまで引きずんの?明日?あさって?公演終わるまで?それとも一生?」
「うっせーし!」
「黙ってたら怒るし、なんか言っても怒るって、マジ訳分かんねーんだけど。つーかいつまでヘコんでんだよ、もー。」
「……………だって。」
赤西は、何か失敗してもすぐに立ち直る。打たれ強い。むしろ、もうちょっと引きずって反省しろと言われる事も、ままある。
対照的に亀梨は、気持ちが落ちやすい。浮き沈みが激しい。うまくいくと調子に乗ってどんどん浮上するけれど、何かに躓くと一気に落ち込むのだ。
唇を噛んで、眉を寄せて俯いて、今にも泣き出しそうなのを必死に堪えている横顔を見て、赤西はちょっとだけ、気分がすっきりとした。
落ち込みを隠して八つ当たってくる亀梨よりも、あからさまにしょんぼりとしている亀梨の方が、カワイイ。不謹慎だと分かっていても、カワイイものはカワイイ。
もちろん、それだけの理由ではないけれど。虚勢なんて張らずに、凹んでいる時は凹んでいると言って欲しいのだ。
「なー、もう考えんなって。仕方ないじゃん、そうゆう日もあるんだからさ。俺なんて衣裳間違えたり出間違えたり歌詞間違えたりダンス間違えたり、マジしょっちゅーだしさ。終わった事いちいち気にしてたら、もたねーし。それより明日の事考えよーぜ?」
一気にまくしたてると、亀梨はようやく顔を上げた。笑っているのかと思いきや、
「………反省しろよ。」
呆れられている。けれど、強張っていたその顔から少し力が抜けているのを見て、赤西は笑った。弱いところを見せて欲しいとは思っていても、亀梨が凹んでいると心配になる。…心配と言うか、そういう言葉じゃなくて。
「カメはさ、なんでもむずかしく考えすぎなんだよ。」
「仁は考えなさ過ぎだけどなー。」
「うっせ。ちょっとだけドライブでも行く?気晴らしー!」
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